かんぽ不正・日本郵政の記者会見。広報の専門家の視点から見た感想
かんぽ生命保険の不正な販売問題で、2019年12月18日、日本郵政グループの3社長が記者会見しました。
日本中でお年寄りらを食い物にしていた、深刻な大事件ですよね。
今回のこの記者会見の様子を、広報の専門家の視点でチェックしてみたいと思います。
目次
かんぽ問題・記者会見2019年12月18日の概要
3社長の記者会見は、18日午後5時すぎから。
その2時間ほど前に、第三者調査委が会見しており、具体的な不正件数やその内容を公表しました。
法令や社内ルール違反疑いのある契約が1万2,000件以上も判明。
その背景には、社内にノルマ至上主義が横行し、悪い募集テクニックが流行し、問題行為が黙認されていたとのこと。
営業成績に応じて、社員には「ブルーダイヤモンド」「ダイヤモンド」「ゴールド」といったステータスがあり、成績優秀者はハワイなどの景品もあったそう。まるでマルチ企業ですね。
それを受けて、3社長は記者会見に臨みました。内容は、
・お詫び
・調査結果と今後の取り組みについて
記者会見を見た私の感想
3社長は民間の金融機関の出身。金融庁から頼まれて就任した、いわば「よそ者」です。
それを知った上で会見を見れば、この3人に対して同情の余地は多少あります。
かんぽの不正は、彼らが就任する前から組織的に行われていたからです。
3人は「頼まれたから来てやったのに、とんでもないババをつかまされた」と思っているでしょう。
しかし、世間はそこまで斟酌してくれません。「この人たちが責任者」だという目で見ます。
その点、この会見では、全般的に世間の感情を逆なでする要素・場面が多数あったと言わざるを得ません。
大多数の人が、長門社長のこの謝罪会見を見たら「不遜」という印象を持つと思います。
起きている事態の深刻さと比べ、トップの態度からその切迫感が伝わってこないのです。
本人としては不本意だとは思いますが、そんな雰囲気をにじませてはいけませんでしたね。
そして、記者側の質問、突っ込みにも物足りなさを感じました。記者たちはなめられているんじゃないでしょうか。
①マニュアル通り
まず感じたのは、基本的に「マニュアル通りの会見だな」ということです。
紺のスーツに白のワイシャツ、そして黒っぽいネクタイ。慎ましやかな会場。
想定質問とそれに対する予定の回答をペーパーで用意し、淡々と記者の質問に答えています。
想定回答から大きく外れた答えは、まずなかったはずです。
記者から、「2014年3月以前の調査はしないのか?」と聞かれると、
かんぽ生命保険の植平光彦社長は、「物理的に5年間以上遡れないということもあって・・・」やらないと言う。
それも、手元の紙に目を落としながら、歯切れの悪い話し方なのです。
マニュアルに沿ってしか動けない、話せないということは、その場を乗り切ること、自分の身を守ることで頭がいっぱいだとも言えます。
人間としての本音の声は聞かれない、想いも何も感じられない、そんな会見だった印象です。
一言で言うと、つまらない。
②引責辞任を明らかにしない
経営責任について問われて、日本郵政の長門正貢社長は以下のように答えます。
「しかるべき経営責任について、しかるべきタイミングであらためて発表申し上げたい。
“辞任”とおっしゃいましたけど、そういう方法論だけではないと思いますので」
後半の一文は、本当に余計な一言でした。
「地位に恋々としてしがみつこうしているのでは?」と思われても仕方がない言い方ですね。
また、「打ちでの小槌一本で改革できるとは思っていない。経営陣全員で全身全霊で打ち込んでいく」とも発言。
社長を続ける気、満々じゃないですか。
生活者は「経営トップによる謝罪」に関心低い?
つい先日(2019.12.4)、電通PR内の企業広報戦略研究所が「企業のリスクマネジメント」に関する調査結果を発表しました。
その中で、次のような話がありました。
企業が事件・事故・不祥事を起こした直後、生活者が企業に求める対策は、1位「被害拡大防止」(71.5%)、2位「再発防止策の策定」(55.3%)、3位「現状と対策の情報開示」(48.5%)でした。
一方で、「経営トップによる謝罪」は32.7%にとどまりました。謝罪表明は重要ですが、生活者はより実質的に被害拡大防止・再発防止につながる対策を求めていることがうかがえます。
(引用)電通PR ニュース&トピックス
この調査結果をみた世の社長の中には、
「不祥事が起きても、オレ辞めなくても良いじゃん」と考える人がいたかもしれません。
日本郵政の長門正貢社長がこの調査結果を見ていたかどうかは分かりません。
ただ、このアンケート結果は、一般的な企業不祥事についての生活者の感想です。
しかし、今回の事案は、明らかに不祥事のレベルが根深すぎます。
つまり、一部の社員の暴走というより、組織そのものの体質に起因しているのは明らかです。
だから、トップが責任を取らずに誰がどう収まりをつけるのか?引責辞任は避けられないケース。
「自分がやめようがやめまいが、生活者は大して気にとめないだろう」という考えがあったのなら、完全な読み間違えでしょう。
あるいは、自分の一存ではまだ辞められない可能性も高そうです。政府からの沙汰を待っている可能性もあります。
③当事者意識の希薄さ
日本郵政の長門社長は冒頭、「客様をはじめとする関係の皆様に、ご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、まず深くお詫び申し上げます」と述べました。
ですが、この間ずっと手元のメモに目を落とし、読み上げているだけ。
全く申し訳ない気持ちが伝わって来ませんでした。
かんぽと郵便の各社長2人も、お詫びを棒読み。「お詫びします」と言いながら、数センチほどちょこんと頭を下げただけ。
昔の報道なら、テキストベースで文章が新聞等の紙媒体に掲載されるのがメーンでした。
だから謝罪は、字面が整っていれば、それでよかったかもしれません。
しかし昨今は、誰もがネットで動画に簡単にアクセスできる。それも、記者会見はリアルの生中継が増えています。
みんな、文章ではなく、実際に誤っている姿を動画やテレビの映像で見るんですよ。
映像は、文章だけよりも数千倍の情報が伝わると言われます。
(参考)1分間の動画はWebサイト3,600ページに相当する情報量
だから、「字面だけ謝っておけばいいだろ」という傲慢な態度は、動画を見れば一瞬で見抜かれます。
今後、謝罪の会見をする方は、謝りの言葉の字面だけでなく、謝り方の一連の動作や表情まで、細心の注意を払いたいですね。
④終わり方のまずさ
産経新聞の記事によると、「怒号飛び交う中、会見強制終了」だったそうです。
報道陣から怒号が飛び交う中、長門氏ら経営陣が足早に会見場を引き上げる姿は、経営改革への意欲の乏しさを際立たせた。
不祥事の記者会見の強制終了は、あるあるパターンなんですけどね、やっぱりまずいですよね。
そんなことをすれば記者の心証をますます悪くするだけ。結果的に、報道も批判のトーンを強めます。
まさに上記の記事の書きぶり「経営改革への意欲の乏しさを際立たせた」は、記者の怒りがにじみ出ていますよね。
会見場を去ろうとした時、記者たちから抗議を受けた長門社長は、「会見は2時間やりました」と宣ったそうです。
「自分は2時間“も”やったから十分だろう?」という意図なのでしょうけど、記者たちがまだ納得できていないのなら、まだ説明は不十分なのです。
会見の強制打ち切りは、危機管理広報の絵面としても最悪です。「逃げている」としか見られないからです。
まとめ
読売新聞記者時代、日本郵政を取材したことがあります。
旧郵政省の官僚出身者だと思いますが、後にも先にも覚えがないほど、際立って感じの悪い取材対応だったのをよく覚えています。
組織として相当、風通しの悪い所であったことは、今回の不祥事からも明らかでしょう。
他の省庁関係者が言うには、郵政省に入って「国家公務員になった」と思ったら、小泉改革の民営化でいきなり民間人になったので、不本意に感じている人が多いそうです。
そんなルサンチマンが組織の上層に充満していれば、組織全体が健全さを保つのは難しいでしょう。
国民のための日本郵政という原点に立ち返って、がんばっていただきたいものです。
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