広報戦略の絶対セオリー。情報連鎖を引き起こす「波及広報戦略」の進め方
戦略的な広報を実行できれば、テレビ新聞やウェブニュースを通じて世の中に大きなうねりを起こすことができます。
ただ、中小企業の場合、いきなり全国ネットのテレビを狙うのは現実的ではありませんよね。
そこで、私が考える広報戦略のセオリーは、
「ローカルメディアから波及させる」
つまり、川上から攻める「波及広報」戦略です。取り組むハードルが低く、再現性も高い理にかなったやり方です。
私は読売新聞大分支局から記者キャリアをスタートし、東京本社社会部に勤務。北海道から沖縄まで取材を経験し、中央と地方のメディアをよく知っています。
私が地方から記事にした商品サービスが、全国的にメジャーになったケースはいくつもあります。
この記事では、これから広報戦略に取り組みたい中小企業経営者の方のために、「波及広報」戦略に流れをお伝えします。
目次
広報戦略とは?
まず広報戦略とは何か?一言で言うと、意図的にメディア取材を獲得し、世の中に情報を広めるための全体設計です。
昔なら、潤沢な資金力がある大企業がテレビ新聞にマス広告を打つことで、一気に世の中を動かすことができました。
しかし今は、意図的に「情報を広める」「ブームを起こす」ことは、難しい時代になっています。
2つの理由があります。
①ネットが発展し、生活者の好みも多様化。情報流通の流れが複雑化しているから
②多くの生活者が広告の売り込み宣伝に対して、拒否反応を示すようになったから
彼らは広告ではなく、自分の役に立つ情報」しか目を向けません。
このため、広告ではなく、記者・編集者が手がけた客観的な記事・番組で、良い形で取り上げてもらう重要性が増しています。
広告戦略が効かなくなった、それゆえに意図的にマスメディア取材を呼び込む「広報戦略」が大いに注目を集めています。
広報戦略の絶対セオリー。情報連鎖を引き起こす「波及広報戦略」の進め方
広報戦略と言うからには、情報を波及・連鎖させなければ意味がありません。
以下のステップに沿って、広報戦略に取り組みます。
(1)自社分析(ジャーナリスティック視点)
まず最初に、自社をジャーナリスティックな視点から分析します。
以下の2つを明文化しておきましょう。
・会社としての「理念、志」
・ユニークな事業コンセプト
自社分析については、下の記事をご参考ください。
(参考)広報PR戦略プランの立て方 世の中を巻き込む情報発信の9ステップ
(2)狙うメディアの選定、リサーチ
次に、掲載を狙うメディアを定めます。
「相手が求める情報」を把握しなければ、刺さる情報を作れないからです。
では、どのメディアを狙うか?自社の現状やジャンルに応じてピックアップしましょう。
まだメディア掲載実績がない企業は、まず地元密着ローカルメディアを狙うと良いでしょう。
選んだメディアの記事や番組内容をリサーチし、自社情報との接点を探ります。
(参考)メディアリストの作り方。戦略的に取材を受けるリスト作成7つの手順
(3)広報企画の立案
メディアリサーチの結果を考慮しながら、ネタになる広報企画を立案します。
商品サービスの開発、あるいはイベントの開催がオーソドックスです。
(参考)広報PRネタの作り方。全国ニュースを生み出す逆算発想のコツ
(4)オウンドメディアの整備
新聞やテレビなどのマスメディア露出する前に、受け皿となる自社メディア=オウンドメディアを整備しておきましょう。
広報成果を売上に繋げやすくなります。
そして、オウンドメディアが検索エンジンにも強くなるほど、さらなる新聞テレビ露出も実現しやすくなります。
(参考)広報とオウンドメディアで進めるPR戦略7つのステップ
(5)プレスリリースの作成、送付
いよいよプレスリリースの作成、送付です。
自社のトピックを間断なく発信し、マスメディア記者たちとリレーションを構築していきましょう。
プレスリリースの書き方はこちらで解説しています。
(参考)プレスリリース書き方決定版!プロ記者直伝・初心者向けテンプレート公開
メディア情報連鎖の流れ
川の水が上流から下流へと流れるように、メディアの情報も川上から川下に流れます。
広報戦略に取り組むにあたっては、この流れをしっかり意識しましょう。
メディアの情報連鎖の流れをお見せします。
①コミュニティメディア(FM、・・経済新聞、フリーペーパー)
地域密着のメディアです。対象範囲が狭い分、キメの細かい情報をキャッチしています。
主に「市単位」レベルのメディア群です。取材者は一人〜数人程度でしょう。
リーチできる対象は、よくて数千人程度です。
②地方新聞(地元紙、全国紙の地方支局)
次に「県単位」のメディアです。
ほぼ全国の道府県単位で少なくとも一社の「地元新聞社」があります。100〜200人の記者がいます。
それに加え、朝日や読売などの全国紙が各県に記者を配置しています。朝日、読売なら1県に記者10人前後です。
リーチできる対象は、10万〜数十万人ほどです。
③地方テレビ
同じく「県単位」のメディアとしてテレビがあります。
各県に民放5〜1局があります。それぞれが在京キー局(日テレ、テレ朝、TBS、フジ、テレ東)の系列に属しています。
地方テレビ局の取材記者は少なく、県内に各社5人前後です。
リーチできる対象は、数十万〜100万人です。
④ウェブニュース・雑誌
上記1〜3のメディアが取り上げたローカルニュースは、多くがウェブ上に流れていきます。
これらをもとに、ウェブ上に無数にあるニュースサイトで取り上げられるケースが出てきます。
ウェブニュースの代表格は「Yahoo!ニュース」です。ヤフーニュースのトピックスで紹介されれば、爆発的な連鎖を期待できます。
ヤブトピのトップなら、多い時は数百万人にリーチできます。
⑤NHK
NHKはハードルが高いメディアの代表格として知られています。
ですがNHKは全国新聞社と同様、日本全国に記者を置いています。
このため、各県ごとにニュース放送枠を持っているのです。
ですので、NHKの全国放送はかなりハードルが高い一方、地方のローカルニュース枠で取り上げてもらうことは、そこまで難しくありません。
NHK記者の人員は、全国新聞と同様、各県あたり10人前後でしょう。
⑥全国紙
全国紙とは、一般的には朝日、読売、毎日、産経を指します。
これに日本経済新聞を加えて「五大紙」という言い方もあります。
新聞の部数は年々右肩下がりで減っています。
とはいえ、シェアトップの読売新聞もいまだ公称800万部発行しています。
もしこれらの全国紙で取り上げてもらえれば、認知拡大とブランディングに大きく寄与します。
全国紙とからYahoo!ニュースに連鎖することもよくあります。
⑦テレビ在京キー局
在京キー局とは、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京の5局を指します。
これにNHKを含めた6局の地上波で取り上げてもらうことを、多くの経営者は夢みます。
これらテレビの、例えば午後7〜8時台の番組で紹介されれば、1000万人超の視聴者の目に触れます。
その結果、お店なら大行列になったり、商品なら爆発的に売れたりするようになります。
広報戦略の事例: 有田焼・究極のラーメン鉢
私が読売記者時代の2004年に記事を書いた、有田焼の「究極のラーメン鉢」と言う商品があります。
佐賀県の有田焼は時代の流れに押され、販売が低迷していました。
そこで、有田焼の14窯元が「新しい有田焼商品を作ろう!」と手を携えて共同開発したのが「究極のラーメン鉢」です。
家庭でインスタントラーメンをおいしく食べられる器として、全国の百貨店などでも人気を集める商品となりました。
なぜか?
この商品と開発ストーリーには、メディアが好んで取り上げる要素に満ち満ちていたからです。
・地域産業の振興(特定の1社ではない)
・ストーリー性・・「弱者がチャレンジする」
・面白さ(窯元が大まじめに美味しいラーメンを目指す)
・ギャップ(高級品の有田焼でラーメン?!)
・いかにも感(有田で焼き物といえば「いかにもだよね」)
・ビジュアル性(たくさんのデザインの器がある)
まず大前提として、「地域産業の振興」という大義名分があったことが大きかったですね。
当時の私も、躊躇なく「記事にして応援しよう!」と思いました。
そして、「弱者がピンチからチャレンジする」というストーリーにも胸を打たれました。
これはハリウッド映画等でも鉄板です。なぜなら、多くの人が自らに重ね合わせ、共感してくれやすいからです。
波及していく情報の条件
上記のラーメン鉢のように、広報戦略がうまくいくためには、大前提があります。
それは、「広報素材の優れたコンセプト」です。
だから、広報戦略にあたっては、真っ先に(1)自社分析(ジャーナリスティック視点)をやる必要があります。
その内容として望ましい要素は
・大義名分がある
・ストーリーがある
・ギャップを感じさせる
・見栄え、絵になる場面を用意する
・地域性を取り入れる
・同業他社を巻き込む
・・・などといった要素です。
波及広報とは?
広報戦略のセオリーは、「出やすいメディアから出る」。
そして、その小さな実績が、より大きな実績を呼び込んでくれます。
「わらしべ長者」あるいは「出世魚」の法則です。
田中角栄や小沢一郎も、選挙戦略において「川上から攻めよ」と言っています。
田舎の山奥から攻め始めることで、地縁血縁をたどり、都市部在住の人にも支持を広げていけるという考え方です。
広報戦略では、最も攻めやすいのが、地域密着のローカルメディアです。
そこから、地元の名門新聞、地方テレビ局へと広げていきます。
波及の過程では、ボーリングのヘッドピンの如く、他への波及力が格段に高いのが、「地方の全国紙」です。
波及広報戦略では、「全国紙の地方記者」を狙います。
地方を足がかりに、より広いエリアや全国へ、情報連鎖を起こしやすいのです。
波及広報で情報連鎖が起きる理由
「全国紙の地方版」に載ると、波及・連鎖が起きやすい理由は、以下の3つあります。
1 他メディアの目に触れる
当然、一つのメディアの目に触れると、他のメディア関係者の目に触れます。
どんなメディアの人も、常日頃ネタ探しをしています。
ネタ探しに、他のメディアに目を通すことはルーティンワークの一つなのです。
多くの全国紙は、地方ニュースもネット配信しています。
このため、東京のテレビや雑誌などの関係者の目にも触れやすくなります。
2 新聞データベースに載る→信頼性が高まる
主だった新聞社の記事は、「新聞記事データベース」に載ります。
有名なのは「日経テレコン」。あるいは「ジーサーチ」です。
もしあなたの会社名や社長名、社員名が新聞に載れば、当然、これらの新聞記事データベースに掲載されます。
これが大きいのです。
多くのメディア関係者は、この新聞記事データベースを日常的に利用しています。
私は読売新聞記者時代、「取材しようかな、どうしようかな」と迷った際は、必ずこのデータベースで取材候補を検索していました。
そこで、他社(朝日、毎日など)掲載歴が分かると、安心しました。「朝日が載せているなら、おかしな会社ではないだろう」と考えるのです。
地方版の記事も全てデータベースに載ります。
3 企画会議が通りやすくなる
テレビ等の企画会議では、現場のディレクターらが企画を上司に説明します。
そのプレゼンの際、新聞記事は強力な威力を発揮します。
「●●新聞なら、しっかりした情報だよね」とお偉いさんも安心し、企画にゴーサインが出やすくなるのです。
広報戦略の目標設定
広報においては、「KPIは定める必要はない」というのが私の考えです。
というのも、メディア掲載は広告と180度異なり、企業側がコントロールできるものではありません。
掲載の権限は全てメディア側にあるからです。
逆に、掲載数を目標にしてしまうと、自分目線・エゴに陥り、力づくでメディアにねじ込みたくなります。
ゴリ押し広報は最もメディアに嫌われるアプローチです。
メディアとの関係性が壊れてしまい、回復不能な損失を被ります。これは絶対に避けたいです。
だから、経営者の方は広報担当者の成果について、目に見えるメディア掲載だけを見て評価しないでください。
広報活動は、成果が現れるまでタイムラグがあるからです。
例えば3ヶ月、全然メディア露出がないとします。「広報担当、何もしてないじゃないか?」と腹が立つかもしれません。
しかし、その3ヶ月の努力が身を結ぶのは、4ヶ月目以降ということはザラです。
定量で評価するなら、「行動の量」です。
・何人のメディア関係者との接触したか?
・プレスリリースをいくつ作成したか?
やるべきことをやれば、あとは天にお任せです。
広報では、目先の結果にばかり拘ると失敗します。広報活動は、関係づくりですから、長い目で見てください。
広報戦略には、長い時間をかけて取り組むだけの価値が大いにあります。
広報戦略のメリット
この広報戦略の素晴らしい点は、「資本力は問題ではない」という点です。
お金のあるなしは関係なく、優れた戦略を生み出し、実行できた会社・人物が勝者となります。
つまり、たとえ資本力の乏しい中小企業であっても、「価値のあるネタだ」と認めてもらえれば、新聞やテレビで紹介されるのです。
その点、大企業も中小企業も、同じ土俵でフェアに戦える舞台です。素晴らしいと思いませんか?
なぜなら、マスメディア記者はお金ではなく、「世の中の役に立つ情報かどうか?」で掲載可否を判断するからです。
広報なら取材ですから、当然費用はかかりません。
ただ、広報のネックは「取材獲得はコントロールできない」ということ。
しかし、メディアの情報の流れと原理原則を理解できれば、正しい広報を戦略的に進めることができます。
まとめ:記者・編集者の視点から戦略を立てよう
広報戦略で念頭におくべきは
・メディア選び
・情報素材(ネタ)
この2つ。つまり、「どこに?」「何を?」届けていくのか、です。
まずメディア選びに関していえば、私の経験からローカルから始めるやり方は再現性が高い戦略です。
それから情報づくりには細心の注意が必要です。
“まずいラーメン”はどうプロモーションしても売れることはないからです。
最初に美味しいラーメン(=ネタ)を作る、これは広報戦略を成功させる最低条件です。
相手が美味しいと感じるラーメンを作る。
そのために、記者・編集者視点を持つ必要があります。これには修練が必要です。
広報は、頭を使うクリエイティブな活動です。
自分の情報が意図通りに広まると楽しいですよ。
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